October 11, 2005 Tuesday
女王様と私
歌野晶午 角川書店
これは…なんと言えばいいのだろう。途中まで考えたミステリのネタを別の構造に作り替えたものなのか、それとも最初から意図してこの構成にしてあるのか。どちらにしても、かなり勇気のある実験作と言えるかもしれない。
主人公の「引きこもり」や「オタク」ぶりの描写はかなり面白い。また、それとは真逆の方向にある都内のお洒落スポットやグルメについても書き込まれていて見事だと思うし、冒頭から散りばめられている細かい仕掛けにを見ても、この作品がよく作り込まれていることがわかる。
しかし、読み終えた今、今ひとつ釈然としないというか、この本を好きだという事に抵抗感を覚えるのは、私が古いタイプのミステリファンだからだろうか。
例えば、同様にオタクについての描写が細かい倉知淳氏の「壷中の天国」などでは、読後に一通りの説明が明確に描かれていて、非常にスッキリとした印象を受ける。しかしこの作品にはそういったカタルシスが感じられないのだ。
しかしむしろ、カタルシスを読者に与えないということこそが、作者の意図するものなのかもしれない。ある意味、時代の閉塞感を表現しているとも言えるだろう。
ISBN4-04-873628-0 ¥1600+税
投稿者 Miyuki Noma : 19:26