May 26, 2006 Friday 

第三の時効

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横山秀夫 集英社文庫

ハードカバーで出たときに買いそびれたので、文庫化されたものを読んだ。横山氏得意の警察小説(短編集)だが、後味がスッキリしない作品が多く、あまり好きな本ではない。
表題作の「第三の時効」は、少々大仰にネタを引っ張りすぎだと感じてしまった。最も好きなのは「密室の抜け穴」だが、これはTVドラマなどに流用したら面白いシーンになるのではないかと思う。

ISBN4-08-746019-3 ¥629+円

投稿者 Miyuki Noma : 18:53

May 16, 2006 Tuesday 

陽気なギャングが地球を回す

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伊坂幸太郎 祥伝社文庫

私が持っているのはノン・ノベル版だが、積んでおいた間に文庫が出てしまった。(映画化されたので文庫化は当然だが)
この作品の最大の魅力である登場人物の会話は、ドナルド・E. ウェストレイクの「怪盗ドートマンダー・シリーズ」を彷彿とさせる。

前半で登場する小道具などをラストできちんと使い切る手腕は読んでいて気持ちがいい。
ただ、この作者の著書の中では、他のものに比べて若干取っつきが悪いような気がした。もちろん作品に入り込んでしまえばそんなことはないのだが。

ISBN4-396-33268-8 ¥660

投稿者 Miyuki Noma : 19:28

May 14, 2006 Sunday 

激流

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柴田よしき 徳間書店

柴田氏が最も得意としているものに、複数の登場人物を丹念に描写した群像劇がある。この作品は非常にページ数も多く分厚い本に仕上がっているが、中身の方もそれに劣らず濃厚だ。
中学生のある一時期に「同じ班」だった男女7人の物語(中心になって語られるのは5人)であるが、それぞれ全く違う道を歩んだかつての同級生達が、ある事件をきっかけに再び集まり、それぞれの近況を語りながらもう一度成長していく姿が深く描かれている。

久しぶりにあった同級生と、「この20年間何をしていたか」を一晩語り明かしたかのような満足感を得た。とにかく面白い。

ラストで明かされる事件の真相は、おそらくおおかたの読者が期待していたものとは違っていることと思うが、現実はむしろこういうことの方が多いのかも知れないと考えるとかえってリアリティがあるだろう。惜しむらくは、後半に登場する人物がもう少し前半でも語られていて欲しかった。

ISBN4-19-862079-2 ¥2000+税

投稿者 Miyuki Noma : 12:59

May 13, 2006 Saturday 

εに誓って

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森博嗣 講談社ノベルス

ギリシャ文字をタイトルに冠したGシリーズの4作目。この作品は前作とは違って1冊だけでも独立して楽しむことが出来るようになっている。

トリックとしては比較的よく見られる手法だと思うが、すでにこのシリーズはそういう部分を楽しむものではなくなっているので、それについて言及するのもナンセンスだろう。
キャラクター達の会話を充分に楽しむべきであるし、おそらくシリーズが完結する頃には、あの女性がどうしているのか朧気にでも見えてくるに違いない。もちろん、そのとき「彼」がどうするつもりなのかも非常に気になるところだ。

ISBN4-06-182485-6 ¥880+税

投稿者 Miyuki Noma : 16:50

January 13, 2006 Friday 

聖遺の天使

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三雲岳斗 双葉社

「旧宮殿にて」が面白かったので、それより前本書が出ていたことを知ってすぐに購入した。
登場人物の説明が丁寧になされているので、どちらを先に読んでもわかるようになっている。私はむしろ先に短編集でキャラクターに馴染んでいたのでかえって楽だったかも知れない。

探偵役のレオナルド・ダ・ヴィンチが聖遺物とそれが置かれた城砦の謎を解き明かすのだが、仕掛けも大掛かりだし細かい部分も作り込まれていて読んでいて心地よい。登場させた人物や小道具などを全て綺麗に使い切っているところに作者の心意気を感じた。
本格ミステリとして完成度が高い上、キャラクターも魅力的なのでぜひ多くの方に読んで欲しい。

中に登場する固有名詞に関しての勘違いは、私自身も最近非常に近い仕掛けをしたことがあったので、その類似に少々驚きを感じる。私の作品の方が半年ほど発表が後なのでインスパイアされたと思われるかも知れないが、偶然の一致であることを明言しておく。

ISBN4-575-23481-8 ¥1500+税

投稿者 Miyuki Noma : 18:51

January 12, 2006 Thursday 

予告探偵—西郷家の謎

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太田忠司 中央公論社

作者の意図した通りに騙されるのはミステリを読む楽しみのひとつであるが、途中に提示されているヒントが少ないとそれも若干薄れてしまうことがある。
本書にも少々その傾向がないだろうか。前半の「懐古趣味的な」描写のあとの終章は、やはりどうしても違和感がつきまとってしまった。

「摩神尊」という名前を持つ「予告探偵」は、太田氏のキャラクターの中では特異な性格だろう。しかし、その傍若無人ぶりにも彼なりに筋が通っているところは著者の誠実さか。
しかし、太田作品以外にならそういった人物はすでに何人も登場しており、周辺を取り巻く人物設定にも残念ながら目新しい部分は見つけられなかった。

読み終わって、「なぜ今太田氏がこれを?」という疑問が湧いてしまったことは否めない。もちろん丁寧に描かれた面白い読み物であることは確かなだけにモヤモヤしたものが残る。

ISBN4-12-500924-4 ¥900+税

投稿者 Miyuki Noma : 17:22

レタス・フライ

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森博嗣 講談社ノベルス

ショートショート5編を含む短編集。哲学的な雰囲気のものやセンチメンタルなものなど、バラエティに富んでいるが、やはり一番のお楽しみは最初に収録されている「ラジオの似合う夜」とラストに置かれた西之園萌絵と叔母の佐々木睦子が登場する「刀之津診療所の怪」だろう。

「ラジオの似合う夜」には固有名詞が一切登場しないが、Vシリーズの読者にはすぐに誰だかわかる程度に説明がされており、その彼が語り手であるためにいつもならなかなか見られない内面を知ることの出来る貴重な作品となっている。
話そのものは、泡坂妻夫氏の傑作短編「紳士の園」「煙の殺意」に収録)を思わせるものだった。このタイプの話は真相が大きければ大きいほどいいので、なるほどそのために海外を舞台にしたのかとひとり納得してしまった。

ISBN4-06-182466-X ¥880+税

投稿者 Miyuki Noma : 04:22

January 10, 2006 Tuesday 

摩天楼の怪人

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島田荘司 東京創元社

本格ミステリを読む醍醐味は、およそ実行不可能と思われる謎を探偵役が鮮やかに解明するところにあると思っているが、本書はその謎が次から次へと畳みかけるように読者に提示され、ラストにそれが一気に説明される快感がある。

残念なことに説明されきれない描写などもあり、また、トリックそのものについても若干疑問に思う部分があったが、少なくとも読んでいる間にはそんなことを忘れさせるパワーを持った作品だと思う。

著者が後書きでも言っているように、ブロードウェイ黎明期の古き良きニューヨークの描写やセントラルパークの歴史など、観光している気分で楽しめる作品でもあった。

ISBN4-488-01207-8 ¥2857+税

投稿者 Miyuki Noma : 18:39

November 16, 2005 Wednesday 

猫丸先輩の空論

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倉知淳 講談社

ご存じ猫丸先輩の短編集。日常の謎系の作品が6編も収録されていて読み応えたっぷり。中でも一番のお気に入りは、猫丸先輩の…いや、作者の倉知淳氏の人の悪さ(褒めてるんですよ)が存分に発揮されている「とむらい自動車」だ。
ネタバレになるので詳しくは語らないが、ある意味叙述トリックであり、このシリーズを長く読んでいる読者を大いに不安にさせる仕掛けがほどこされている。

「子ねこを救え」と「魚か肉か食い物」は、そのままミステリ漫画に描き起こせそうな内容で微笑ましい。また、巻末に収録されている「夜の猫丸」は、プチホラーといった雰囲気でラストを飾っている。

講談社ノベルスでは、本書の前に「猫丸先輩の推測」が出ており、こちらも楽しいのだが、ファンとしてはそろそろ猫丸先輩に長編でも活躍して欲しいと願っている。

ISBN4-06-182446-5 ¥900+税

投稿者 Miyuki Noma : 18:18

November 12, 2005 Saturday 

アンボス・ムンドス

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桐野夏生 文藝春秋

桐野夏生氏が最も得意とする、女性の内面を徹底的に追求した短編集である。怪作「グロテスク」で発揮された女の嫉妬心や理不尽な処遇への怒りの描写を凝縮したような作品も多く、短編集とは思えない濃厚さで読む者に迫ってくる。
ただ、そういう傾向の作品の中で表題作の「アンボス・ムンドス」は少々趣を変えている。女性が一人称で「作家」に語るという形式を取っているために、読み始めはやはり「グロテスク」のようなタイプの作品かと思われたが、ラストにいたってこれはある意味で本格ミステリなのだとわかった。

この本の帯には、「アンボス・ムンドス」に登場する恋人からの手紙の文面が一部引用されているのだが、その「一日前の地球の裏側で、あなたを待っています。」というところだけ読むと、昨今流行の悲恋ものだと読者をミスリードしているようにも見える。確かに悲恋ものではあるのだが、いわゆる「泣かせ」系だと思って読むと、作品の根底にある「悪意」に衝撃を受けるだろう。
傑作短編集である。

ISBN4-16-324380-1 ¥1300+税

投稿者 Miyuki Noma : 13:26

旧宮殿にて

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三雲 岳斗 光文社

15世紀の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチを探偵役とした本格ミステリ短編集。パズラーの要素が満載で、安楽椅子探偵の様相も呈している。
中でも「二つの鍵」は、論理ミステリの手法をとった傑作である。モチーフに「箱と鍵」が使われているために、どことなく森博嗣氏の「封印再度」を彷彿とさせる。「封印再度」のトリックは、個人的に日本で最も美しいトリックの一つだと思っているのだが、開かない箱というものはなぜこんなにも魅力的なのだろうか。

探偵役のダ・ヴィンチが「美しい男」として描かれているのも楽しい。しかし、彼の容姿がビジュアルで確認できないのは小説である以上諦めるとして、作中に登場する絵画や小道具、トリックの説明などに図版の類が全くないのは残念である。

大変面白かったので、ぜひ、シリーズとして続刊を望む。

ISBN4-16-324380-1 ¥1300+税

投稿者 Miyuki Noma : 13:25

October 15, 2005 Saturday 

容疑者Xの献身

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東野圭吾 文藝春秋

久しぶりにカッチリとした本格ミステリを読んだ。実は前作の「探偵ガリレオ」は、正直に言ってあまり印象に残っていない。天才科学者が探偵役というのはツボのはずなのだが、どうしてあまり記憶にないのか不思議なところではある。
しかし、この作品はとても面白かった。斬新なトリックかと言われれば、もしかすると古典的とも言える手法なのかも知れないが、作者の誘致が巧妙なので綺麗に騙されてしまう。

一カ所、最終的などんでん返しにつながるのではないかと疑った部分があるのだが、それはどうやら本筋とは無関係だったようだ。ネタバレではないが、これから読む方に先入観を植え付けないように伏せ字にすることにする。(読みたい方はドラッグしてください)

靖子についての描写で、複数の登場人物が「あれだけの美貌」とか「美しい」という表現をしているのに、本人の台詞などでは「こんな中年の」とか「魅力的でもないのに」といったニュアンスの言葉が数カ所登場する。深読みしてしまうと、<靖子>として描かれている人物と事件の根幹に関わった女性は別人なのではないかと勘ぐってしまった。
結果的にそれは間違いだったのだが、女性の心理描写として若干整合性がとれていないような気がしたのは事実である。

だが、上記の部分は決してこの作品の疵ではない。前編通して非常にクリアで、かつフェアな本格ミステリである。

ISBN4-16-323860-3 ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 08:34

October 11, 2005 Tuesday 

女王様と私

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歌野晶午 角川書店

これは…なんと言えばいいのだろう。途中まで考えたミステリのネタを別の構造に作り替えたものなのか、それとも最初から意図してこの構成にしてあるのか。どちらにしても、かなり勇気のある実験作と言えるかもしれない。

主人公の「引きこもり」や「オタク」ぶりの描写はかなり面白い。また、それとは真逆の方向にある都内のお洒落スポットやグルメについても書き込まれていて見事だと思うし、冒頭から散りばめられている細かい仕掛けにを見ても、この作品がよく作り込まれていることがわかる。

しかし、読み終えた今、今ひとつ釈然としないというか、この本を好きだという事に抵抗感を覚えるのは、私が古いタイプのミステリファンだからだろうか。

例えば、同様にオタクについての描写が細かい倉知淳氏の「壷中の天国」などでは、読後に一通りの説明が明確に描かれていて、非常にスッキリとした印象を受ける。しかしこの作品にはそういったカタルシスが感じられないのだ。
しかしむしろ、カタルシスを読者に与えないということこそが、作者の意図するものなのかもしれない。ある意味、時代の閉塞感を表現しているとも言えるだろう。

ISBN4-04-873628-0 ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 19:26

黄泉路の犬

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近藤史恵 トクマ・ノベルズ

待望の南方署強行犯シリーズの第二弾である。
新米刑事である圭司の視点で描かれる警察小説であるが、近藤氏の描く世界であるから構える必要は全くない。彼を振り回す先輩女性刑事の黒岩はクールだが冷徹ではないし、この作品では彼女のプライベートな部分も紹介されているので読者はよりいっそうの親近感を覚えるだろう。

しかし、ほのぼの系の作品かとのんきに読み進めていると、かなり衝撃的な事件に出くわすことになるので注意が必要だ。もっとも、章ごとのタイトルを見ればあらかたの予想は付くかも知れないが。

非常に勝手な感想だが、思春期に初めて新井素子氏の「通りすがりのレイディ」を読んだときに近い衝撃があった。

(以下、少々ネタバレなので文字色を白にしてあります。読みたい方はドラッグしてください)

「通りすがりのレイディ」では、人間の赤ん坊を臓器移植用に<飼って>いるシーンが登場する。怪我の治療もされないまま放置され、言葉も教えられずにいる子ども達のシーンは非常にショッキングだった。この作品に出てくるのは動物たちの受難だが、衝撃度はそれに近い。

ただ、圭司の飼い猫の太郎と、新参者のチビとの関わりの部分で読者はホッとすることだろう。このシーンが一番好きかも知れない。

私自身は、特別動物好きと言うわけではないが、この作品に描かれている一部は現実なのだし、あとがきにも感じるものがあった。ぜひ読者にもこれを読んでもう一度「動物と暮らす」ことについて考えてもらえればいいと思う。

ISBN4-19-850676-0 ¥819+税

投稿者 Miyuki Noma : 16:32

東京DOLL

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石田衣良 講談社

「ブルータワー」を読んだときにも思ったが、石田衣良氏は、オリジナルの世界観をリアルに描くのがとても得意な作家だと思う。
「ブルータワー」では近未来の東京だったが、この作品では現在の東京、それも夜の東京がたっぷりと描かれている。作中で主人公のMGが、これから作るゲームの舞台に東京を選び、そこにヨリという名の少女を配置して写真を撮るシーンがとても美しい。
いったいどんなゲームが完成するのか、ヨリはこのあとどんな人生を歩むのか、とても興味深いところだが、作中では最後まで語られないのが残念だ。

それにしてもこの作品にはベッドシーンが多い。(厳密にはベッド以外でのシーンなのだが。(^^;;;;)考えてみれば、石田衣良氏の作品にはエロティシズムの傑作「娼年」などもあるのだから今さら驚く方が間違っているのだが、TVなどでソフトなイメージで語る石田氏の姿や「池袋ウエストゲートパーク」しかご存じない読者にはギャップがあるかも知れない。

内容的には、「アキハバラ@DEEP」の耽美版と言えるかもしれない。ぜひ映像化して欲しい作品でもある。

ISBN4-06-213002-5 ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 16:13

September 06, 2005 Tuesday 

τになるまで待って

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森博嗣 講談社ノベルス

ますますわからないGシリーズ第3弾。これを単独の物語として読むには若干の無理がある。シリーズの最初から読まなければならないのももちろんだが、この先全てが描かれるときを待たなければ全貌は見えてこないのかも知れない。

今回は、前作「θは遊んでくれたよ」よりも更に「真賀田四季」の関わりが強く示唆されている。しかし当然彼女の目的は説明されていないし、この先登場人物達がどのように巻き込まれていくのかも不明である。しかし、「真賀田四季」にはその不満を補ってあまりある魅力(好奇心とも言う)があるので、読者である我々は大人しくシリーズの完結を待つしかないようにも思う。

今回出てきたトリックの中で、殺人そのものには無関係の方に説明されていない部分があるのだが、それはいずれ解明されるのだろうか。それとも、そこまでの説明を求める方が野暮なのだろうか。少々悩むところではある。

ISBN4-06-182451-1 ¥900+税

投稿者 Miyuki Noma : 05:54

July 21, 2005 Thursday 

孤宿の人・上下巻

宮部みゆき 新人物往来社

宮部みゆき氏が最も得意とするタイプの時代物である。だが、これまでの江戸を描いた時代物と違い、今回は四国の小国『丸海藩』が舞台となっている。
不幸な身の上の孤児である"ほう"が、丸海の人々と関わりながら成長していく物語であるが、藩の存続に関わる事件を目の当たりにして、彼女と親しかった人々が容赦なく巻き込まれていく。しかし、"ほう"が健気で一生懸命であることが作品の雰囲気を柔らかくし、一気に読ませられた。

今さら言うまでもないことだが、宮部氏は、この"ほう"のようなタイプの少女を描くのが非常に巧い。読者は誰もが彼女の行く末を案じ、幸せを願わずにはいられないだろう。

ラストの、「藩の意図」の仕掛けの部分をもう少し詳しく知りたいという野暮な希望はあるのだが、それは言わぬが華か。それより重要なのは、その仕掛けにまつわるそれぞれの人物の想いなのだろうから。

上巻:ISBN4-404-03257-9 下巻:ISBN4-404-03258-7 各¥1800+税

投稿者 Miyuki Noma : 06:59

July 15, 2005 Friday 

切れない糸

坂木司 東京創元社

坂木司さんが光文社「GIALLO」に連載中の「デンタル・ディティクティブ」シリーズの第二話から、私がイラストを担当することになった。実は坂木さんの著書はこれまで未読だったが、イラストの仕事がきっかけで誰よりも早く最新作を読める機会に恵まれ、それが面白かったので遡って既刊を読んでみることにした。

ひょんなことから家業のクリーニング店を継ぐことになった若者と、その店のある商店街の人々にまつわる「日常の謎」系の短編集である。
クリーニングについての蘊蓄も楽しいが、主人公のキャラクターが癒し系で和む。探偵役の友人や店の従業員には謎が多いが、みんな優しいので安心して読むことが出来る。謎そのものは軽めなのでコアなミステリファンには物足りないかも知れないが、ミステリの入門編として若い読者に勧めたい。敢えて言うなら、西澤保彦氏の「タックシリーズ」や、光原百合氏の「最後の願い」「十八の夏」などの短編集などに雰囲気が近いだろう。

ISBN4-488-01205-1 ¥1800+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:01

June 01, 2005 Wednesday 

賢者はベンチで思索する

近藤史恵 文藝春秋

「思春期」から少し大人になった少女と謎の老人の物語。バロネス・オツツィの「隅の老人」を彷彿とさせる展開でもある…と書いてしまうのは少々ネタバレだろうか。

近藤氏の小説を読むといつも抱く感想だが、筆者が人間を描く目線はいつもとても優しい。おそらく本人はそんな風には思っていないだろうし、人一倍批判的な目線も必ず持っているはずではあるのだが、それでも「小説」という形になったとき、彼女の描く登場人物は、そのまま等身大の姿で読者の前に現れるのだ。

この作品には3本の中編が収められているが、そのどれもが日常的な生活感の中で誰もが抱いている不安や起こりうるトラブルが丁寧に描かれている。特に第一話の犬の話などは、しばらく前から愛犬と暮らしている筆者の経験が生かされているような気がして微笑ましい。
最終話のラストも後味のいいものだった。

私がこう言うのも僭越だが、とても「いい作品」だと思う。ぜひみなさんに読んで欲しい。

ISBN4-16-323960-X ¥1700+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:02

May 11, 2005 Wednesday 

θは遊んでくれたよ

森博嗣 講談社

Gシリーズ第二弾。やはり萌絵と犀川先生が出てくるとホッとしてしまうが、このシリーズからのニューフェイス「海月君」も捨てがたい。作中ずっと寡黙で、ラストで怒濤の推理を披露するあたり、正しい名探偵の血筋を引いているとも言えるが、それでも犀川先生が一枚上手なところはご愛敬だ。

事件の鍵となるAIの扱い方は、森氏の経歴から考えると少々物足りなさを感じてしまった。もう少し突っ込んで欲しかったが、もしかするとそれは事件の影に見え隠れしている「真賀田四季」のことをふまえての演出なのかも知れない。

ISBN4-06-182431-7 ¥900+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:03

April 28, 2005 Thursday 

黒笑小説

東野圭吾 集英社

「怪笑小説」「毒笑小説」に続く短編集。ショートショートに近いかも知れない。

1話目の「もうひとつの助走」は、筒井康隆氏の「大いなる助走」のパロディとなっており、同じキャラクターを使った短編も複数収録されている。
言うまでもなく、文壇や文学賞の選考を皮肉った作品だが、東野氏だからこそ書ける…というところもあるだろう。

「シンデレラ白夜行」は、自身の「白夜行」の登場人物をシンデレラに置き換えたような作品。面白い。
他に「臨界家族」や「笑わない男」のように、最後の数行が見事なオチになっているような秀作が満載である。

ISBN4-08-774754-9 ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:05

魂萌え!

桐野夏生 朝日新聞社

夫に急死された59才の女性の生き方について丁寧に描いた本。全体を通して「孤独」についてじっくりと語られている。
主人公は、自称「自分に自信がない」専業主婦だが、夫の死に直面して大きく変わってしまった日常と、残りの人生設計についての現実を突きつけられて戸惑っている。

彼女の周りに登場する人達も、破天荒な人生を送っている者や、ごくありふれた一般人などさまざまだが、飛び抜けたヒーローやヒロインがいない代わりに、見事にリアリティのある人間として描かれている。その分贔屓のキャラクターというものが出来にくく、どれも胡散臭く感じられてしまうのだが、おそらく現実の社会というのはこういうものなのだろう。

刑事事件的なものが起こるわけではなく、ミステリのカテゴリには入らない作品だと思うが、とても面白く読んだ。

ISBN4-620-10690-9 ¥1700+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:04

April 24, 2005 Sunday 

弥勒の掌

我孫子武丸 文藝春秋

我孫子氏13年ぶりの書き下ろし長編。読みながら「どうも登場人物に嫌な印象がつきまとう」と思っていたが、こういうラストならそれも納得できる。若干「騙された感」が残ってしまうので、素直に納得と言えるかどうかは別の問題なのだが。

新興宗教の団体をこのように描いた作品は他にもあると思うが、決着の付け方は珍しい部類に入ると思う。しかし読後感が犠牲になるのは否めない。第三の登場人物がいて、さらに別の解決方法を提示してくれたらもっと気持ちよく読めたのではないかと思ってしまった。

しかし男性二人の心理描写は秀逸。世のオトコはこんな風にものを考えているのかと感心させられる点はやはり、著者の力量なのだろう。

ISBN4-16-323810-7 ¥1762+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:06

April 21, 2005 Thursday 

シーセッド・ヒーセッド

柴田よしき 実業之日本社

ハードボイルド園長先生・ハナちゃんこと花咲慎一郎シリーズ最新作。いつものように保育園のために孤立奮闘するハナちゃんだが、後半に登場する助っ人「えっちゃん」のおかげで今回はずいぶん楽だったようだ。ボコボコにもされなかったし。

長編だが、3本の中編が少しずつ重なって描かれるという構成になっており、とても読みやすい。もちろん柴田さんの本が読みにくかったことなど過去に一度もないのだが。

あの山内練も敵役として登場するので、彼のスピンアウトものとしても楽しめる。山内はハナちゃんがお気に入りなんだろうと思わせるくだりも、「緑子シリーズ」での彼を知っているだけに可笑しい。
特にコーヒーにまつわるエピソードが好きだ。

花咲慎一郎シリーズの既刊2冊、「フォー・ディア・ライフ」「フォー・ユア・プレジャー」 は、すでに文庫になっているので未読の方はぜひ読んで欲しい。

ISBN4-40-853471-4 ¥1785

投稿者 Miyuki Noma : 07:07

April 05, 2005 Tuesday 

ほうかご探偵隊

倉知淳 講談社

少年少女にもっと本物のミステリーを読んでもらおうと企画された「ミステリーランド」の第六回配本。このシリーズは本当に装丁に凝っていて持っているのが嬉しくなる本だ。

小学校で起きている不思議な「不要なもの」ばかりが消えてしまう事件の謎を解くために、主人公達が「探偵隊」を結成するのだが、その真相を追う課程で飛び出す推理が面白い。

そして、倉知ファンにとって何より嬉しいのは、主人公のクラスメイトで一緒に「探偵隊」として活動することになる『龍之介』君の存在である。
小柄でリスのような丸い目をして、好奇心旺盛でミステリ好き…とくれば、連想するのはもちろん『彼』である。そうか、彼にはこんな甥っ子がいたのか。て言うか、家族いたんだ。(笑)

自分で読むのももちろんだが、ぜひお子さんにも勧めて頂きたい本である。

ISBN4-06-270574-5 ¥2000+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:10

March 24, 2005 Thursday 

灰色の北壁

真保裕一 講談社

帯には「『ホワイトアウト』から10年。渾身の山岳ミステリー」とある。もう10年、いや、まだ10年かと、ちょっと不思議な感覚に囚われた。

この本には3つの中編が収録されている。どれも山岳ものなので読んでいると作品に流れる雰囲気は近いのだが、1話ずつのジャンルは、実はミステリーとしては全て別の手法を駆使したもので非常にバラエティに富んでいると言える。

ネタバレになるといけないので、どれがどの作品を指すのか説明は避けるが、ある意味「恋愛(心理)ミステリー」だったり、本格の要素を含んだ謎解きだったり、記述に仕掛けのあるものもある。真保氏のテクニックを満喫することができる贅沢な一冊だと思った。

ISBN4-06-212802-0 ¥1500+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:12

March 23, 2005 Wednesday 

タイムスリップ釈迦如来

鯨統一郎 講談社

「タイムスリップ森鴎外」「タイムスリップ明治維新」に続くタイムスリップシリーズ第三弾。スラップスティックぶりは前作よりパワーアップしてる。いや〜、愉快だった。

これまで、例えば「百億の昼と千億の夜」に描かれるイエス・キリストのように、歴史上の偉人(という表現も少し違うような気もするが)を『ヘンなヤツ』として登場させる作品は数あるが、ブッダ、老子、ソクラテスなどが一気にまとめて料理されている様は、そう、神も仏もあったもんじゃない。(笑)

真面目に読んではいけない。作品のノリに合わせて楽しめばいい…のだが、釈迦の悟りのわかりやすい解釈や、ブラックホールに関連づけての説明など、思わず頷いてしまう部分があるのは、さすが鯨さんと言うべきだろう。

ISBN4-06-182417-1 ¥800+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:19

モロッコ水晶の謎

有栖川有栖 講談社

久しぶりの火村助教授と作家アリスの国名短編集。中編3本と掌編1本からなる構成だが、僅か4ページ少々の掌編「推理合戦」が、思わずニヤリとさせられてとても面白かった。

もちろん中編も読み応えがある。表題作の「モロッコ水晶の謎」のトリックには唸らされた。客観的には非現実的なのだが、犯人にとって整合性が取れていれば確かに成立する。また、このトリックが成功しなかった場合のサイドストーリーも成り立つのではないかと考えるのも面白い。

ISBN4-06-182418-X ¥860+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:18

March 22, 2005 Tuesday 

パズル自由自在

高田崇史 講談社

千葉千波くんの活躍するシリーズ第四弾。毎回どの話にも難しいパズルが何問も登場して楽しめる。自力で解けるものもあれば、すぐに降参して巻末の回答を見てしまうこともあるが、パズルやクイズ好きには堪らないシリーズだ。

語り役の“八丁堀”こと“ぴいくん”の、いろいろな勘違いぶりも楽しい。事件そのものは『日常系』なので、深刻な大事件はあまり出てこないと思いきや、空き巣や誘拐事件も発生する。それを千波くんが鮮やかに解決してくれるのだが、ラストで別の『回答』が出てきたりするので油断できない。

また、このシリーズの最大の謎は、“ぴいくん”の本名である。私もずいぶん考えたが、本書にはかなり大きなヒントが書かれているので、ほぼ正解に近づいたのではないかと思っている。

ISBN4-06-182420-1 ¥900+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:21

インディゴの夜

加藤実秋 東京創元社

第10回創元推理短編賞を受賞した「インディゴの夜」が、短編集として一冊にまとまった。
渋谷の、ちょっと変わったホストクラブを舞台にした短編集だが、主人公である「オーナー」の晶がとても魅力的で読みやすい。

ホストクラブが成功してもライターの仕事を続けているという設定なので、ところどころに出てくる「業界裏話」的なエピソードも楽しめる上、渋谷や新宿など、繁華街の夜についての描写がリアルで著者の取材力を感じさせる。この著者の経歴について私は詳しく知らないのだが、デビュー短編集とは思えない程の完成度だと思う。

楽しい設定なので、ぜひこのままシリーズが続いて欲しいと思っている。

ISBN4-488-01712-6 ¥1500+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:20

March 21, 2005 Monday 

反自殺クラブ

石田衣良 文藝春秋

人気シリーズ『池袋ウエストゲートパーク』の最新刊。このシリーズは石田衣良氏の作品を読むきっかけになったので特別な思い入れがある。ドラマも面白かったが、原作もとてもいい。主人公のマコトはドラマよりちょっぴり真面目そうだが。

ただ、マコトが池袋ではすでに「無敵」になってしまっているのが読者としては少々ジレンマを感じる。もちろん、いろいろなつてを辿って揉め事を解決するマコトの姿にはカタルシスがあるし、それを期待してもいるのだが、その矛盾は長いシリーズが内包する問題と言えるだろう。

収録されている作品のモチーフは、まさにリアルタイムで表面化している数々の社会問題である。それを著者自身の解釈で作品に消化させている手腕は見事だと思う。軽妙な文体の中に著者の試みや心意気が感じられて清々しい。

ISBN4-16-323770-4 ¥1524+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:23

夜夢

柴田よしき 祥伝社

著者自身があとがきで触れているように、「ホラー」というのはジャンルとしての定義付けが難しいようだ。
しかし、この本を読むとそんなジャンル分けや定義づけはナンセンスなのだということがわかる。「物語」として面白ければそれでいいのだ、と。

収録作は、書かれた年代も発表誌もバラバラで、しかも「お題」のあるアンソロジーや特集で発表された作品なので、本来ならまとまりのない印象の短編集になってしまう可能性もあるが、この一冊の本に流れる統一感はどうだろう。あとで著者自身が記した「覚書」を読むまで、発表誌がこんなに多岐にわたっていることに気づかないほどである。
僅かに途中、なぜこの展開になるのかな? と不思議に思った作品があったのだが、それこそ「覚書」を読んで納得できた。

その統一感を導き出しているのは、作品の合間に挟み込まれた不思議な人物達の会話なのだが、そこにも作者の仕掛けや細かい心遣いがあり、語り部としての柴田よしきの本領発揮というところか。
壮大な長編も、本書のような短編集もどちらも得意な作家というのはそれほど多くない。お勧めの短編集である。

ISBN4-396-63249-5 ¥1800+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:22

March 03, 2005 Thursday 

最後の願い

光原百合 光文社

『ジャーロ』に連載されていた劇団φシリーズが一冊にまとまった。連載中、私はイラストを担当していた上、取材時にも同席していたことがあるので特に思い入れがある。一つの小さな劇団が公演を打つまでの間、人材集めと共に解かれていく謎。光原さんの人間を見る優しさに溢れた短編集になっている。
特に最後から2本目の話は、前半から提示されていた謎の一つが解明され、なおかつその解決方法が胸を打つ。最終話のラストも、思わず自分が劇団φの一員になったかのように胸が熱くなるだろう。

単行本化にあたって、イラストの掲載はなくなってしまったので、興味のある方はぜひ私のイラストギャラリーを参照して頂きたい。著者ご本人が「イメージ通り」と太鼓判を押してくれた登場人物のビジュアルをご覧いただけるだろう。(キャラクターのモデルと直接交流があるので当然なのだが)

ISBN4-334-92452-2 ¥1800+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:24

February 28, 2005 Monday 

新・世界の七不思議

鯨統一郎 創元推理文庫

「邪馬台国はどこですか?」に続く、待望の新解釈シリーズ第二弾。静香と宮田の掛け合いは健在…どころか毒舌が更にパワーアップ!

このシリーズ、『ミステリーズ!』に連載中に全て読んではいたが、こうして一冊にまとまると改めて堪能しないでいられない。誰でも子どもの頃、『世界の七不思議』には興味をかき立てられたと思うが、それを簡潔明瞭に再構築されると目から鱗である。

中でも「ストーンヘンジの不思議」の解釈は、読んでいて鳥肌が立ってしまった。この解釈は古代史学的に正解ではないのか?

個人的には、ムー大陸について触れているくだりの、菊池桃子のギャグが一番ウケた。(笑)
こーゆーの、大好きですよ。>鯨さん

ISBN4-488-42202-0 ¥700+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:24

February 20, 2005 Sunday 

モップの精は深夜に現れる

近藤史恵 実業之日本社 Joy novels

『天使はモップを持って』のキリコちゃんが再び登場。大好きなシリーズなのであっという間に読んでしまった。
なにしろ主人公が可愛い。ファッションセンスも魅力的だが、彼女の物の考え方に強く惹かれる。素直であるということはこんなにも気持ちのいいことなのかと。

気持ちがいいのは、キリコの働きっぷりもそうだ。ビルの清掃係という、若い女の子が選びそうもない仕事が彼女の天職なのである。掃除の苦手な私にとってはひたすら尊敬するのみ。
掃除の詳しい描写は、著者の近藤史恵さん自身が、ビル清掃のアルバイトをしていた(と、ご自身の日記に書かれていたことがある)ときの経験が生かされているのだろう。

軽いテイストの短編集ではあるが、起きる事件はかなり深刻なものも混ざっている。そしてラストに収録されている一本は、キリコ自身の家庭生活(なんと彼女は人妻なのだ)にも触れられ、心にポッと暖かいものをもらったように終わっている。

前作の『天使はモップを持って』と合わせて、ぜひ女性の方に読んで欲しい本だ。

ISBN4-408-50448-3 ¥860

投稿者 Miyuki Noma : 07:25

February 12, 2005 Saturday 

月読

太田忠司 文藝春秋

人は死ぬと『月導』(つきしるべ)を遺し、『月読』(つくよみ)だけがそこから死者の最期の想いを読むことが出来る…これが太田氏が作ったこの世界の決まり事である。
読み進むうちに、「もしや私は、今までの人生で『月導』のことを知らずに過ごしてしまっただけなのではないか。『月読』は本当にいるのではないか」という錯覚に囚われそうになった。
それほど、この本の世界観はリアルであり、かつ幻想的である。

『月読』である朔夜という青年も、河井という刑事も、克己という高校生もそれぞれ魅力的で生き生きと描かれている。太田氏の文章力によるものなのはもちろんだが、おそらく氏の人柄も作品の雰囲気に現れているのだろう。

事件の動機も、決着の付け方も、きちんとはまった作品に仕上がっている。
静かで、とても暗い。しかし闇の暗さではなく、月明かりのある仄暗さである。ぜひ多くの人に読んで欲しい。

ISBN4-16-323690-2 ¥1857+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:26

February 11, 2005 Friday 

推理小説

秦建日子 河出書房新社

タイミングが悪かった。「キッチリした本格推理小説が読みたいなぁ」と思っているときに読むべきではなかったかも知れない。タイトルが『推理小説』だったので買ってみたのだが、本格ではありませんでした。

著者はドラマの脚本家だと言うので、ドラマとして作り替えたら面白いのかも。キャラクターはけっこう魅力的だし、所謂「劇場型犯罪」っぽいし。

入れ子構造(と言っていいのか)になっている部分は、特に新しい工夫は感じられなかった。っていうか、これってトリックあるんですか? 仕掛けは大仰だけど、広げた風呂敷が畳みきれていない印象が拭えない。
本の厚みの割に改行や空白が多く、あっという間に読み終わってしまったのが少々不満である。…ノベルズで読みたかったな。

ISBN4-309-01686-3 ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:27

February 10, 2005 Thursday 

QED 〜ventus〜 鎌倉の闇

高田崇史 講談社ノベルス

「QEDシリーズ」第八弾。薄めの本なので、途中まで読みかけて“積ん読”の下の方に紛れ込んでしまい、第九弾と読むのが前後してしまった。

大河ドラマが今年は「義経」なので、鎌倉についての考察が興味深い。鎌倉という土地が選ばれた経緯や、「名水」についての考察などは本当に面白く読んだ。

現代の事件と微妙にシンクロさせているのも面白いが、この事件の本質だと鎌倉幕府と言うよりは武田信玄の方がリンクしやすそうな気がしてしまうのは、私が歴史に詳しくないからかも知れない。

ISBN4-06-182384-1 ¥760+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:28

February 04, 2005 Friday 

切断都市

芦辺拓 実業之日本社

「都市」についての芦辺氏のこだわりはこれまでの著作にも多く見られたが、あとがきでご本人が触れているように、これは彼の都市小説…特に大阪を舞台にした作品の集大成と言える作品になっている。
「切断都市」というキーワードも魅力的だが、その意味するところと隠された事件の動機のリンクはとても興味深かった。

雑誌連載された作品と言うことで、後半やや急いでまとめられた印象はあるものの、中盤の都市論は圧巻。欲を言えば、とても動かし易い立場に設定された主人公についての記述に、もう少しビジュアルに訴えかけるようなものがあるといいと思う。作中何度も「警察官らしからぬ風貌」という表現は見られるのだが、もう少し具体的にどんな様子の人物なのか知りたいところだ。
だた、彼はこの作品で初登場の探偵役なので、今後他の作品に描かれることがあれば次第にわかってくることなのかも知れない。

全くの余談だが、昔、お台場で「都市博」が計画されたとき、テーマ曲を担当するはずだったのは横山輝一だった。
「Lovin’ You」のヒットの後、少々足踏み状態だった彼にとって、この仕事はある意味正念場だったに違いない。しかし、シングルCDが発売された直後「都市博」中止を公約した都知事が当選し、ファンの期待は淡い夢に終わった。
現在横山輝一は、EXILEへの曲提供(昔はZOOにも曲を書いていた)やプロデューサーとして活動しているが、この一件がなければもしかするとまだシンガーとして活躍してくれていたかも知れない…と思うのはかつてのファンの幻想だろうか。と、そんなことを思い出してしまった作品である。

ISBN4-408-53467-6 ¥1800+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:29

February 01, 2005 Tuesday 

オーデュボンの祈り

伊坂幸太郎 新潮文庫

※内容を推測できる恐れのある部分を伏せてあります。伏せ字箇所にマウスを乗せると表示されるのでご注意ください。

小説を楽しむためには、作者が提示した「この世界のルール」を受け入れる必要があると思う。それを大前提として余計な突っ込みはせず、ただ物語に浸ればいい。
ただ、ミステリの場合、ルールと見せかけたトリックだったり、前提そのものが崩れたりすることがよくあるので、ミステリファンは「どこが罠なのか」「どれが真実なのか」と意識しながら読む癖が付いてしまっている。

そういうわけで、提示されている世界観が果たしてトリックなのか、それとも単なる設定なのか、最後まで判断がつかないまま読み終えてしまった。…設定だったのね。

読後、漠然とカミュ「異邦人」を思い出した。ずいぶん若いときに読んだので(しかも何度も)記憶はおぼろだし、およそテーマを理解しているとは言い難い私だが、主人公がコンビニ強盗をする動機に近しいものを感じたのかも知れない。テーマへのアプローチは全く違うのだが。

作中に登場するリョコウバトの話は、やはり若いときに偶然出会った「50億のマーサ」(佐藤晴美・著)という漫画で知っていた。知っていて良かったと思う。

ISBN4-10-125021-9 ¥629+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:30

January 30, 2005 Sunday 

ラッシュライフ

伊坂幸太郎 新潮社

※内容を推測できる恐れのある部分を伏せてあります。伏せ字箇所にマウスを乗せると表示されるのでご注意ください。

本を開くとカバーの見返しに「ラッシュ」の意味が書かれている。
lash、lush、rash、rush。タイトルのラッシュは、これら全ての意味を含んでいるらしい。

でも、読んでみると、「ラッシュライフ」というよりは「シャッフルライフ」なんじゃないの? と、思ってしまった。最近流行りだし。

帯に、「重力ピエロ」のあの人も登場と書かれていて、確かにその人は魅力的に描かれている。彼の物語だと言ってもいいくらいだ。しかし、もしこの作品をシャッフルなしで読んだら面白いのだろうか? とも思ってしまった。

部分的に解明されていない謎があるのもちょっと気になる。「高橋さん」の正体は何なの? とか。

ISBN4-10-602770-4 ¥1700+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:31

January 27, 2005 Thursday 

重力ピエロ

伊坂幸太郎 新潮社

軽やかな本だった。「軽い」のではない。「軽やか」である。間違えてはいけない。
非常に重いテーマを描いているのにそう思うのは、文体が重々しくないからか。潔いのに暖かい、それでいて少し切ない。ああ、そうか、私の好きな、なだいなだ氏の青春小説のような仄暗さを感じたのかも知れない。100ワットの電球を取り付けるべきところに40ワットのを入れてしまったような。

この人の文章は好きだ。エピソードや単語が予想を裏切って飛躍する。はまる予感がする。いや、もうすでにはまった。
著書を続けて読もうと思う。

ISBN4-10-459601-9 ¥1500+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:33

January 26, 2005 Wednesday 

犯人に告ぐ

雫井脩介 双葉社
※内容を推測できる恐れのある部分を伏せてあります。伏せ字箇所にマウスを乗せると表示されるのでご注意ください。

いろいろなランキングでベスト10に入っているので読んでみることにした。この著者の本は初めてだったが、気負いのない文章で読みやすい。真保裕一さんや横山秀夫さんに通じる手堅さを感じたが、それは『警察小説』から来るイメージに引きずられ過ぎだろうか。

惹句の『劇場型捜査』という言葉の通り、息詰まる展開が魅力的だが、少々残念に思うのは最も緊迫する二つの展開は、犯人とのやり取りではなく、それ以外の人物との駆け引きにあるという点。そこが一番面白いだけに気になってしまった。

最初の事件の犯人についてもう少し突っ込んで欲しいと思うのは欲張りすぎだろうか。

『劇場型』をテーマにしているだけあって、読んでいると頭の中でどんどんキャスティングのイメージが湧いてくる。とても映像化に向いている作品だと思う。

ISBN4-575-23499-0 ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:34

January 25, 2005 Tuesday 

麻耶雄嵩 幻冬舎

※内容を推測できる恐れのある部分を伏せてあります。伏せ字箇所にマウスを乗せると表示されるのでご注意ください。

正直に言うが、このタイプの記述トリックには少々食傷気味である。途中に全てが分かった訳ではないが、それでも冒頭からつきまとう違和感に警戒しつつ読み進めるのはあまり気持ちのいいものではなかった。

面白くなかったとは言わない。むしろ、早く真相を知りたい気持ちに引っ張られて一気に読める。だが、読了後に残ったのはカタルシスではなく後味の悪さだったのは否めない。

今さら、『事件のための設定』の是非を問うつもりはない。しかし、登場人物たちが所属しているサークルの活動内容や、過去の事件との重ね合わせ方、“半年前の連続殺人事件”の真相などが、《浅く》見えてしまうのは私だけだろうか。

ISBN4-344-00664-X ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:35

January 24, 2005 Monday 

紅楼夢の殺人

芦辺拓 文藝春秋社

恥ずかしながら、あとがきを読むまで『紅楼夢』という中国の古典の存在を知らなかった。知らずに読んだので、どこからどこまでが既存のエピソードなのかもわからない。また、馴染みのない中国名(また、登場人物が多いのだ)に四苦八苦しながら読んだ。

頑張った甲斐があったと思う。

本格ミステリにおいて、トリックは要となるものだが、凝ったトリックを登場させる場合、「なぜ犯人はそんな手間のかかる細工をしなければならなかったのか」という理由付けに作者は苦しむ。特に、ダイイングメッセージなどのシチュエーションは難しい。(本作品には登場しないが)
しかし、芦辺氏はそのジレンマを鮮やかに逆手に取った。なるほど、『紅楼夢』に材を求めたのも頷ける。

余談ですが、巻末に付せられている著者インタビューの中で、“主人公たちの高校時代を主軸として、社会人や中学生の頃も描かれるのですが、それらは常に「現代」として描かれている…”、“ある有名なシリーズ漫画”というのは、『パズルゲーム★はいすくーる』のことですよね?>芦辺さん

ISBN4-16-321370-8 ¥1857+税

投稿者 Miyuki Noma : 07:36

January 23, 2005 Sunday 

QED 鬼の城伝説

高田崇史 講談社

「QED」シリーズ第九弾。このシリーズのおかげで『鬼』についてはずいぶん詳しくなれた気がする。舞台が岡山で、桃太郎伝説の解釈がメインなのだが、犬、猿、雉についての考察はとても面白かった。
今回は祟(本当は崇だが、通称:タタル)の登場が遅く、現れるなり事件の全貌を見通してしまうと言う名探偵っぽい構成になっている。そして、とってもゆっくりと奈々と祟の関係も進展しているようなしていないような。(笑)

事件の核になる「首を切った理由」は目新しいと思う。ただ、膨大な桃太郎や鬼の蘊蓄に埋もれてせっかくのアイディアの印象が薄くなってしまったのが残念である。

ISBN4-06-182409-0 ¥820+税

投稿者 Miyuki Noma : 06:29

窓際の死神(アンクー)

柴田よしき 双葉社

帯には「おとぎばなしをモチーフに描く寓話的ミステリー」とある。実際そうなのだが、よくある童話の教訓を取り入れたパロディものと考えて読むとずいぶん違和感があるだろう。確かに作中に死神が登場したりおとぎ話がそれぞれの話の冒頭に登場したりはするが、中身はそれを全く意識させない『柴田節』炸裂のストーリーになっている。

柴田さんのファンならとっくにご承知のことと思うが、この人は実に女性の心理や行動を描くのが巧い。現実に身近にいそうだったり、あるいは自分の心の中にこんな『女』がいるかも知れないと感じさせる程だ。この本に収録されている二話の主人公達も、まるで知り合いの誰かのようなリアリティを持って自らの物語を語ってくれる。もしあなたがOLさんなら余計にそう感じるのではないか。

死神という存在とリアリティ、一見矛盾しているような言葉の組み合わせだが、読んで頂ければ必ず納得されると思う。絶対おすすめ。

ISBN4-575-23511-3 ¥1500+税

投稿者 Miyuki Noma : 06:28

January 20, 2005 Thursday 

すべての美人は名探偵である

鯨統一郎 光文社

早乙女静香と桜川東子が組んだ! …まさかこんな掟破りのコンビを実現させてしまうとは。
静香の傍若無人ぶりは、『邪馬台国はどこですか?』シリーズ以上。いや、あちらでは舞台はバーの中だけなのだから、そこから飛び出した静香がどうなるのかは想像してしかるべきだった。(^^;;;;

事件の鍵となるアリバイには、少々偶然の要素があるのは否めないが、この本の魅力はそこではないので気にならない。
「ずいずいずっころばし」についての考察は、流石『邪馬台国』シリーズの作者の本領。楽しませてもらった。

帯のコピーは秀逸。(笑)

ISBN4-334-07597-5 ¥867+税

投稿者 Miyuki Noma : 06:23

やさしい死神

大倉崇裕 東京創元社

『三人目の幽霊』『七度狐』に続く落語シリーズ。落語専門誌の働かない編集長:牧大路と、彼に振り回される女性編集者:間宮緑のコンビは、名探偵フォーマットの王道である。

テーマが落語だけに、人情味溢れる作品ばかりの短編集。落語に興味がなくても知識がなくても楽しめます。

ISBN4-488-01204-3 ¥1600+税

投稿者 Miyuki Noma : 06:21

瑠璃の契り

北森鴻 文藝春秋

<冬狐堂>の宇佐見陶子登場。民俗学者:蓮丈那智シリーズと並んで北森氏の二大クールビューティーシリーズである。
しかし、今回はクールなはずの陶子の過去に迫る作品が多く収録されていて、彼女の傷や情熱を伺うことが出来る。
考えてみれば、孤立することを全く恐れない(むしろ楽しんでいると見える)蓮丈那智に比べて、陶子の戦いぶりはほんの少し痛々しい。蓮丈那智にとっての、三国に当たる存在が周囲にいないせいもあるのか。

作中に「池尻大橋のバー」や「三軒茶屋のバー」がチラチラ登場するのもファンには嬉しいところ。

ISBN4-16-323660-0 ¥1476+税

投稿者 Miyuki Noma : 04:51

さまよう刃

東野圭吾 朝日新聞社

描かれる事件は、宮部みゆきさんの『模倣犯』を彷彿とさせる。また、現実社会でもこうした事件は頻発しているので余計にリアリティがあるが、現実と違うところは、犯人の行動課程や心理を知ることが出来るという点だろうか。それが実際とは違っているとしても、「きっとこんな感じなのだろう」と思わせてしまうのは作者の筆力の成せる技だと思う。

『模倣犯』を彷彿とさせる…と書いたが、物語のアプローチは全く違う。むしろ稲見一良氏の世界に近いか。

東野さんは、このところあまりミステリ寄りではない作品も多かったので、油断して読んでいたら途中の小さな仕掛けにすっかり騙されてしまった。(それが嬉しい)
この仕掛け、もしなかったとしても今ついている東野ファンは全然困らないだろう。いや、もしかすると仕掛けの意味に気づかずにスルーしてしまう読者もいるのかも知れない。しかし、ここがミソですから、くれぐれもお見逃し無く。

ISBN4-02-257968-4 ¥1700

投稿者 Miyuki Noma : 04:49

臨場

横山秀夫 光文社

画像ではわかりにくいだろうが、装丁が素晴らしい。タイトルの二文字の間にある黄色い線には、「KEEP OUT 立入禁止」と書かれている。そう、現場保持のために警察が張るあのテープだ。これが特殊なエンボスインクで刷られているために、本物のテープを貼ったような質感がある。

で、内容。'終身検視官'倉石義男の仕事が堪能できる短編集。本格である。これ以上は言うことがない。面白い。
倉石の活躍する長編もぜひ読みたいと切望している。超おすすめ。

ISBN4-334-92429-8 ¥1700

投稿者 Miyuki Noma : 04:47

I'm sorry,mama.

桐野夏生 集英社

帯で使っている「怪物」というキーワードから、『グロテスク』のような作品を想像しながら読んだ。確かに、「自分の中にもそういう部分があるのかも知れないが、やはりかけ離れた女」という意味では 『グロテスク』に近いものがある。

我慢すること、ルールを守ること、他人の権利を侵さないこと…など、生きていく上で守っていかなければならない決まり事は沢山あるが、それを守っていたら生きていけなかった女の物語である。
私の好みだけで言うと、主人公がもっと賢くて、この作品で迎えるラストとは逆の方向に行ってくれたらな…とも思う。しかしそれではテーマそのものが変わってしまうのだろう。あるいは、東野圭吾さんの『白夜行』に近くなってしまうのか。

ISBN4-08-774729-8 ¥1400

投稿者 Miyuki Noma : 04:43

アキハバラ@DEEP

石田衣良 文藝春秋

オタクの聖地、秋葉原を舞台に繰り広げられる電脳アクション小説。電脳アクションって何だ?(笑)
主人公達が生み出したサーチエンジンは、実際にあったらいいなと思わせるアイディア満載で魅力的です。

後半、リアルアクションになってしまうのが、個人的には少々不満かも。でも、途中の「危機を回避する方法」は、イントロで登場する設定が生かされていて唸りました。

裏アキハバラで何が起こっているのか覗き見したい人におすすめ。「そんなもん見たくない!」という人も、アキバ系の実態にチラリと触れておくのもいいかも知れません。

ISBN4-16-323530-2 ¥1649+税

投稿者 Miyuki Noma : 04:38

日暮らし 上下巻

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宮部みゆき 講談社

『ぼんくら』に登場した同心・井筒平四郎が活躍する長編。
宮部さんの時代物は好きなので、たっぷり読めて嬉しい。もし、「宮部さん好きだけど、時代物は…」と言って敬遠している人は大損をしていると思う。

後半の「仕掛け」は、ちょっと、芦辺拓さんの『殺しはエレキテル』を連想してしまった。
今さら私が言うのも何だけど、宮部さんは本当に文章が巧い。

本筋からは外れるが、江戸時代の「養子縁組」について少々考えさせられた。軽々に現代に当てはめて考えることはできないとわかってはいるが、この時代の大らかさが今にあれば、悩む女性が減るのではないかと思う。

上巻:ISBN4-06-212736-9 下巻:ISBN4-06-212737-7 各¥1600

投稿者 Miyuki Noma : 03:59