May 27, 2006 Saturday
邪香草
柴田よしき、森青花、青木和、横森理香、山藍紫姫子、近藤史恵、竹河聖、高瀬美恵、是方那穂子 祥伝社文庫
人気女性作家による恋愛ホラーアンソロジー。さまざまなタイプの作品が楽しめるお得な一冊である。好きな作家の作品が多く収録されているので読み応えがあった。
ホラーというジャンルにはあまり触れる機会がないのだが、恋愛中心でまとめられているので読みやすい。
山藍氏の「タリオ」は、「背徳の聖者たち」と「オム・ファタール—運命の男」に登場する裏組織の話である。これはホラーというよりはミステリに近く、私にはとても面白かった。
ISBN4-396-33099-5 ¥590+円
投稿者 Miyuki Noma : 19:06
May 14, 2006 Sunday
激流
柴田よしき 徳間書店
柴田氏が最も得意としているものに、複数の登場人物を丹念に描写した群像劇がある。この作品は非常にページ数も多く分厚い本に仕上がっているが、中身の方もそれに劣らず濃厚だ。
中学生のある一時期に「同じ班」だった男女7人の物語(中心になって語られるのは5人)であるが、それぞれ全く違う道を歩んだかつての同級生達が、ある事件をきっかけに再び集まり、それぞれの近況を語りながらもう一度成長していく姿が深く描かれている。
久しぶりにあった同級生と、「この20年間何をしていたか」を一晩語り明かしたかのような満足感を得た。とにかく面白い。
ラストで明かされる事件の真相は、おそらくおおかたの読者が期待していたものとは違っていることと思うが、現実はむしろこういうことの方が多いのかも知れないと考えるとかえってリアリティがあるだろう。惜しむらくは、後半に登場する人物がもう少し前半でも語られていて欲しかった。
ISBN4-19-862079-2 ¥2000+税
投稿者 Miyuki Noma : 12:59
April 28, 2006 Friday
愛する人は毒入り
山藍紫姫子 ビブロス ビーボーイスラッシュノベルズ
「養子」として引き取られる約束で訪れた若菜(男性)は、養父となる宇治谷と妖しい美少年・馨との関係を目撃してしまう。馨の魅力に抗えない若菜は、やがてある特殊な「儀式」に取り込まれて行く。
…という、全員男性の妖しい関係の物語であるが、途中ずっと提示されているある謎が、ラストで鮮やかに、しかもとても簡潔に説明されているのに目を瞠った。
もちろん、行為の描写は濃厚で大変刺激的である。
ISBN4-835-21778-0 ¥850+税
投稿者 Miyuki Noma : 19:14
April 27, 2006 Thursday
オム・ファタール—運命の男
山藍紫姫子 フロンティアワークス ダリアノベルズ
「背徳の聖者たち」の続編。登場人物達の関係が更に複雑に濃厚になっている。
また、物語の背景にある「設定」についても詳しい描写があり、大変楽しませていただいた。
登場人物はもちろん全て男性で非常にエロティックなので、免疫のない方は要注意だが、こういった世界があることを知っておくのも悪くない。(笑)
ISBN4-861-34012-8 ¥900(税込)
投稿者 Miyuki Noma : 19:00
背徳の聖者たち
山藍紫姫子 フロンティアワークス ダリアノベルズ
ボーイズラブ小説の巨匠である山藍紫姫子さんの作品だけあって、大変に濃厚な描写の連続である。
苦手な方にはお勧めしないが、この作品は一種の「仕事人」ものとしても楽しめるので、BL系に抵抗のない方にはお得な一冊である。
設定が大きいので描き切るにはかなりの力量が必要と思われるが、その辺りはさすがに巨匠。お見事だと感嘆した。
ISBN4-861-34007-1 ¥900(税込)
投稿者 Miyuki Noma : 18:47
April 04, 2006 Tuesday
運命のバカンス
アイリーン・ウィルクス ハーレクイン シルエット・ディザイア (D952)
カンザスでスペイン語を教える平凡な女教師であるジェーンは、バカンスで訪れたカリブ海の島でゲリラ戦に巻き込まれてしまう。
危ういところを助けてくれたのは、バスで一緒だった謎の男「ジョン」だった。二人は逃げる途中で関係を持ってしまうが、帰国後、身体の変調に気づいたジェーンの元にジョンが現れてプロボーズをする。
おそらくこの著者は、こういう設定の話が得意なのだろう。「プロポーズのゆくえ」の第三話「口づけは甘い罠」に少々近い雰囲気がある。
しかし、この話の後半はジェーンの住むカンザスの小さな街が舞台であり、前半とのギャップもまた楽しい。
ラストでジェーンがある「活躍」をするシーンは、とても好きな設定で心に残った。
ISBN4-596-50952-2 ¥610+税
投稿者 Miyuki Noma : 18:35
年上の恋人
アイリーン・ウィルクス ハーレクイン シルエット・ディザイア(D1092)
亡き両親に変わって幼い弟妹の面倒を見てきたベンは、40歳にして独身であったが、ある日交通事故を起こしてしまい、瀕死の所を謎の女性シーリーに助けられる。
シーリーに一目惚れしたベンは、休職中の彼女に自分の看護を依頼し、二人の生活が始まるが、シーリーにはある特殊な秘密があった。
この、シーリーの秘密とは、特別な「能力」なのであるが、これがこのストーリーに不思議なムードをもたらしている。ある意味、SF的な設定でもあるが、ロマンス小説にそれがしっくりとはまっているのもこの作者の力量なのかも知れない。とても面白く読んだ作品である。
ISBN4-596-51092-X ¥610+税
投稿者 Miyuki Noma : 18:19
April 03, 2006 Monday
口づけは甘い罠
アイリーン・ウィルクス
シルエット・ディザイア—プロポーズのゆくえ (D969)
「プロポーズのゆくえ」三部作の最終話。末弟のマイケルが主人公であり、前2作とはうってかわって、内戦中の南アメリカ某国が舞台となっている。
布教の手伝いに某国に入っていた未亡人であるA・J は、ゲリラに誘拐されたところを軍の特殊部隊に所属しているマイケルに救出される。しかし、敵の追っ手から逃げる途中、ジャングルで生死を共にするうちに二人の間には熱い感情が芽生えるのであった…という、ロマンスとしてはちょっと意外なストーリーである。
また、三部作のラストということもあって兄弟が結婚を急がなければならなかった理由についても決着が付き、3作読み終わるととてもスッキリした気分を味わうことが出来る。
ISBN4-596-50969-7 ¥610+税
投稿者 Miyuki Noma : 18:10
愛し方がわからなくて
アイリーン・ウィルクス
ハーレクイン シルエット・ディザイア—プロポーズのゆくえ (D965)
「プロポーズのゆくえ 」の第二話。次男のルークが主人公である。乗馬の元オリンピック金メダリストのルークと、将来有望な乗馬の選手であるマギーの物語であるが、「急いで結婚しなくてはいけない」理由を抱えているルークは、親から競技を続けることを反対されているマギーと一時的に「契約」の結婚をする。しかしもちろんロマンス小説なので、契約のままで終わるわけはないのだった。(笑)
ある意味王道であるが、長男がビジネスシーンを舞台にしているのに比べ、一転して舞台が牧場となるのが新鮮である。ヒロインも若々しく、とても好感を持って読むことが出来た。
ルークは次男ということもあり、少々跳ねっ返り風に描かれているが、美青年という設定なのも楽しい。
ISBN4-596-50965-4 ¥610+税
投稿者 Miyuki Noma : 17:58
ハートの秘密
アイリーン・ウィルクス
ハーレクイン シルエット・ディザイア—プロポーズのゆくえ (D961)
ウエスト家の三兄弟が、それぞれ結婚に至るまでの話を描いた「プロポーズのゆくえ」三部作の第一話。まずは長男のジェイコブが主人公である。
これはもしかすると、ハーレクイン独特のカテゴリである「社長と秘書」ものに近いかも知れない。
仕事の鬼で、金融界の「アイスマン」と呼ばれているジェイコブと、ストーカーの暴走によって社交界のスキャンダルに巻き込まれてしまったクレアのラブロマンスである。
ウエスト家の三兄弟が、なぜ急いで結婚しなければならないのかという理由が冒頭に説明されているが、その結末も気になるところだ。
ISBN4-596-50961-1 ¥610+税
投稿者 Miyuki Noma : 17:48
ひとりぼっちが怖くて
アイリーン・ウィルクス ハーレクイン シルエット・ディザイア(D861)
「目撃者」が面白かったので、その主人公ラズの兄、トムを描いた方も読んでみることにした。
どちらかと言えば、トムの視点よりはヒューストンで新聞記者として活躍するジェイシーの視点で描かれた作品だが、最前線の職場で働きながら恋愛に悩む現代アメリカ女性をうまく描写した作品だと思う。
アイリーン・ウィルクス氏という作家にとって、これは(「目撃者」も含めて)初期の作品であるせいか、ところどころ登場人物の心の動きが掴みにくいところもあるのだが、そのわかりにくさもロマンスの味付けになってしまっているところが心憎い。
ISBN4-596-00449-8 ¥610+税
投稿者 Miyuki Noma : 17:39
January 07, 2006 Saturday
目撃者
アイリーン・ウィルクス ハーレクイン シルエット・ディザイア(D823)
ヒューストンの病院で緊急治療室の女医として勤務しているサラは、ギャング団の銃撃事件の目撃者となってしまったために、身辺警護を警察官のラズに依頼することになった。
二人は安全のためにラズの両親の別荘に身を隠すが、二人は次第に惹かれ合っていく。しかし、ラズには囮捜査官時代の辛い過去に囚われ、サラもまた子供のときの交通事故のトラウマに苦しんでいた。
…実はハーレクインのシリーズを読んだのは20年以上前である。今回、この作品を原作として描きおろしコミックスの仕事をすることになり、久しぶりに手に取ったのだが、カテゴリが「シルエット・ディザイア」ということもあってか主人公がきちんと自立していることやサスペンス仕立ての展開にとても魅了された。
男性キャラクターがとても魅力的である。
ミステリ好きの目で見てしまうと、後半に事件の核となる部分が説明しきれていなかったり細々と不備はあるのだが、ロマンス小説なのだからあまり五月蠅いことを言うべきではないだろう。(漫画化にあたってミステリ部分は補完させていただいた)
ISBN4-833-52967-X ¥610+税
投稿者 Miyuki Noma : 17:23
November 12, 2005 Saturday
アンボス・ムンドス
桐野夏生 文藝春秋
桐野夏生氏が最も得意とする、女性の内面を徹底的に追求した短編集である。怪作「グロテスク」で発揮された女の嫉妬心や理不尽な処遇への怒りの描写を凝縮したような作品も多く、短編集とは思えない濃厚さで読む者に迫ってくる。
ただ、そういう傾向の作品の中で表題作の「アンボス・ムンドス」は少々趣を変えている。女性が一人称で「作家」に語るという形式を取っているために、読み始めはやはり「グロテスク」のようなタイプの作品かと思われたが、ラストにいたってこれはある意味で本格ミステリなのだとわかった。
この本の帯には、「アンボス・ムンドス」に登場する恋人からの手紙の文面が一部引用されているのだが、その「一日前の地球の裏側で、あなたを待っています。」というところだけ読むと、昨今流行の悲恋ものだと読者をミスリードしているようにも見える。確かに悲恋ものではあるのだが、いわゆる「泣かせ」系だと思って読むと、作品の根底にある「悪意」に衝撃を受けるだろう。
傑作短編集である。
ISBN4-16-324380-1 ¥1300+税
投稿者 Miyuki Noma : 13:26
October 11, 2005 Tuesday
黄泉路の犬
近藤史恵 トクマ・ノベルズ
待望の南方署強行犯シリーズの第二弾である。
新米刑事である圭司の視点で描かれる警察小説であるが、近藤氏の描く世界であるから構える必要は全くない。彼を振り回す先輩女性刑事の黒岩はクールだが冷徹ではないし、この作品では彼女のプライベートな部分も紹介されているので読者はよりいっそうの親近感を覚えるだろう。
しかし、ほのぼの系の作品かとのんきに読み進めていると、かなり衝撃的な事件に出くわすことになるので注意が必要だ。もっとも、章ごとのタイトルを見ればあらかたの予想は付くかも知れないが。
非常に勝手な感想だが、思春期に初めて新井素子氏の「通りすがりのレイディ」を読んだときに近い衝撃があった。
(以下、少々ネタバレなので文字色を白にしてあります。読みたい方はドラッグしてください)
「通りすがりのレイディ」では、人間の赤ん坊を臓器移植用に<飼って>いるシーンが登場する。怪我の治療もされないまま放置され、言葉も教えられずにいる子ども達のシーンは非常にショッキングだった。この作品に出てくるのは動物たちの受難だが、衝撃度はそれに近い。
ただ、圭司の飼い猫の太郎と、新参者のチビとの関わりの部分で読者はホッとすることだろう。このシーンが一番好きかも知れない。
私自身は、特別動物好きと言うわけではないが、この作品に描かれている一部は現実なのだし、あとがきにも感じるものがあった。ぜひ読者にもこれを読んでもう一度「動物と暮らす」ことについて考えてもらえればいいと思う。
ISBN4-19-850676-0 ¥819+税
投稿者 Miyuki Noma : 16:32
July 21, 2005 Thursday
孤宿の人・上下巻
宮部みゆき 新人物往来社
宮部みゆき氏が最も得意とするタイプの時代物である。だが、これまでの江戸を描いた時代物と違い、今回は四国の小国『丸海藩』が舞台となっている。
不幸な身の上の孤児である"ほう"が、丸海の人々と関わりながら成長していく物語であるが、藩の存続に関わる事件を目の当たりにして、彼女と親しかった人々が容赦なく巻き込まれていく。しかし、"ほう"が健気で一生懸命であることが作品の雰囲気を柔らかくし、一気に読ませられた。
今さら言うまでもないことだが、宮部氏は、この"ほう"のようなタイプの少女を描くのが非常に巧い。読者は誰もが彼女の行く末を案じ、幸せを願わずにはいられないだろう。
ラストの、「藩の意図」の仕掛けの部分をもう少し詳しく知りたいという野暮な希望はあるのだが、それは言わぬが華か。それより重要なのは、その仕掛けにまつわるそれぞれの人物の想いなのだろうから。
上巻:ISBN4-404-03257-9 下巻:ISBN4-404-03258-7 各¥1800+税
投稿者 Miyuki Noma : 06:59
July 15, 2005 Friday
切れない糸
坂木司 東京創元社
坂木司さんが光文社の「GIALLO」に連載中の「デンタル・ディティクティブ」シリーズの第二話から、私がイラストを担当することになった。実は坂木さんの著書はこれまで未読だったが、イラストの仕事がきっかけで誰よりも早く最新作を読める機会に恵まれ、それが面白かったので遡って既刊を読んでみることにした。
ひょんなことから家業のクリーニング店を継ぐことになった若者と、その店のある商店街の人々にまつわる「日常の謎」系の短編集である。
クリーニングについての蘊蓄も楽しいが、主人公のキャラクターが癒し系で和む。探偵役の友人や店の従業員には謎が多いが、みんな優しいので安心して読むことが出来る。謎そのものは軽めなのでコアなミステリファンには物足りないかも知れないが、ミステリの入門編として若い読者に勧めたい。敢えて言うなら、西澤保彦氏の「タックシリーズ」や、光原百合氏の「最後の願い」、「十八の夏」などの短編集などに雰囲気が近いだろう。
ISBN4-488-01205-1 ¥1800+税
投稿者 Miyuki Noma : 07:01
June 01, 2005 Wednesday
賢者はベンチで思索する
近藤史恵 文藝春秋
「思春期」から少し大人になった少女と謎の老人の物語。バロネス・オツツィの「隅の老人」を彷彿とさせる展開でもある…と書いてしまうのは少々ネタバレだろうか。
近藤氏の小説を読むといつも抱く感想だが、筆者が人間を描く目線はいつもとても優しい。おそらく本人はそんな風には思っていないだろうし、人一倍批判的な目線も必ず持っているはずではあるのだが、それでも「小説」という形になったとき、彼女の描く登場人物は、そのまま等身大の姿で読者の前に現れるのだ。
この作品には3本の中編が収められているが、そのどれもが日常的な生活感の中で誰もが抱いている不安や起こりうるトラブルが丁寧に描かれている。特に第一話の犬の話などは、しばらく前から愛犬と暮らしている筆者の経験が生かされているような気がして微笑ましい。
最終話のラストも後味のいいものだった。
私がこう言うのも僭越だが、とても「いい作品」だと思う。ぜひみなさんに読んで欲しい。
ISBN4-16-323960-X ¥1700+税
投稿者 Miyuki Noma : 07:02
April 28, 2005 Thursday
魂萌え!
桐野夏生 朝日新聞社
夫に急死された59才の女性の生き方について丁寧に描いた本。全体を通して「孤独」についてじっくりと語られている。
主人公は、自称「自分に自信がない」専業主婦だが、夫の死に直面して大きく変わってしまった日常と、残りの人生設計についての現実を突きつけられて戸惑っている。
彼女の周りに登場する人達も、破天荒な人生を送っている者や、ごくありふれた一般人などさまざまだが、飛び抜けたヒーローやヒロインがいない代わりに、見事にリアリティのある人間として描かれている。その分贔屓のキャラクターというものが出来にくく、どれも胡散臭く感じられてしまうのだが、おそらく現実の社会というのはこういうものなのだろう。
刑事事件的なものが起こるわけではなく、ミステリのカテゴリには入らない作品だと思うが、とても面白く読んだ。
ISBN4-620-10690-9 ¥1700+税
投稿者 Miyuki Noma : 07:04
April 21, 2005 Thursday
シーセッド・ヒーセッド
柴田よしき 実業之日本社
ハードボイルド園長先生・ハナちゃんこと花咲慎一郎シリーズ最新作。いつものように保育園のために孤立奮闘するハナちゃんだが、後半に登場する助っ人「えっちゃん」のおかげで今回はずいぶん楽だったようだ。ボコボコにもされなかったし。
長編だが、3本の中編が少しずつ重なって描かれるという構成になっており、とても読みやすい。もちろん柴田さんの本が読みにくかったことなど過去に一度もないのだが。
あの山内練も敵役として登場するので、彼のスピンアウトものとしても楽しめる。山内はハナちゃんがお気に入りなんだろうと思わせるくだりも、「緑子シリーズ」での彼を知っているだけに可笑しい。
特にコーヒーにまつわるエピソードが好きだ。
花咲慎一郎シリーズの既刊2冊、「フォー・ディア・ライフ」、「フォー・ユア・プレジャー」 は、すでに文庫になっているので未読の方はぜひ読んで欲しい。
ISBN4-40-853471-4 ¥1785
投稿者 Miyuki Noma : 07:07
March 24, 2005 Thursday
少女大陸 太陽の刃、海の夢
柴田よしき 祥伝社ノン・ノベル
去年の夏に出た本だが、ちょっと読むのが遅れてしまった。しかし、読み始めると最後まで止まらない。やはり柴田さんはSFも面白い。
物語は現代よりずっと未来の、文明が滅びた後に生き延びている小さな世界を舞台にしている。そこは女性だけの社会で、子どもは宝ものとしてみんなに育てられる。…こう書くと、萩尾望都先生の「マージナル」を連想される方も多いかも知れない。もちろん筋書きは全く違うのだが、あちらは男性だけでこちらは女性。共に「終末SF」として「片方だけの性」をテーマにしているところが興味深かった。
前半にはその社会の細かい取り決めや生活ぶりが描写されていて、そういう設定もとても面白い。特に「ティータイム」のシーンなどが女性作家ならではだと思う。欲を言えば、作中にチラッと出てくる「口紅」についての説明をもっと読みたかった。
中盤から後半にかけては、その世界の存続や意味について大きく展開していくのだが、続きがどうなるのか気になって本を置くことが出来なかった。そして、ラストの「広がり」は感動的だ。
おそらく作者は意図的に読者を泣かせようと書いたものではないと思うが、読後、涙が出そうになったのは私だけではないだろう。
ISBN4-396-20782-4 ¥1260
投稿者 Miyuki Noma : 07:13
March 22, 2005 Tuesday
インディゴの夜
加藤実秋 東京創元社
第10回創元推理短編賞を受賞した「インディゴの夜」が、短編集として一冊にまとまった。
渋谷の、ちょっと変わったホストクラブを舞台にした短編集だが、主人公である「オーナー」の晶がとても魅力的で読みやすい。
ホストクラブが成功してもライターの仕事を続けているという設定なので、ところどころに出てくる「業界裏話」的なエピソードも楽しめる上、渋谷や新宿など、繁華街の夜についての描写がリアルで著者の取材力を感じさせる。この著者の経歴について私は詳しく知らないのだが、デビュー短編集とは思えない程の完成度だと思う。
楽しい設定なので、ぜひこのままシリーズが続いて欲しいと思っている。
ISBN4-488-01712-6 ¥1500+税
投稿者 Miyuki Noma : 07:20
March 21, 2005 Monday
夜夢
柴田よしき 祥伝社
著者自身があとがきで触れているように、「ホラー」というのはジャンルとしての定義付けが難しいようだ。
しかし、この本を読むとそんなジャンル分けや定義づけはナンセンスなのだということがわかる。「物語」として面白ければそれでいいのだ、と。
収録作は、書かれた年代も発表誌もバラバラで、しかも「お題」のあるアンソロジーや特集で発表された作品なので、本来ならまとまりのない印象の短編集になってしまう可能性もあるが、この一冊の本に流れる統一感はどうだろう。あとで著者自身が記した「覚書」を読むまで、発表誌がこんなに多岐にわたっていることに気づかないほどである。
僅かに途中、なぜこの展開になるのかな? と不思議に思った作品があったのだが、それこそ「覚書」を読んで納得できた。
その統一感を導き出しているのは、作品の合間に挟み込まれた不思議な人物達の会話なのだが、そこにも作者の仕掛けや細かい心遣いがあり、語り部としての柴田よしきの本領発揮というところか。
壮大な長編も、本書のような短編集もどちらも得意な作家というのはそれほど多くない。お勧めの短編集である。
ISBN4-396-63249-5 ¥1800+税
投稿者 Miyuki Noma : 07:22
March 03, 2005 Thursday
最後の願い
光原百合 光文社
『ジャーロ』に連載されていた劇団φシリーズが一冊にまとまった。連載中、私はイラストを担当していた上、取材時にも同席していたことがあるので特に思い入れがある。一つの小さな劇団が公演を打つまでの間、人材集めと共に解かれていく謎。光原さんの人間を見る優しさに溢れた短編集になっている。
特に最後から2本目の話は、前半から提示されていた謎の一つが解明され、なおかつその解決方法が胸を打つ。最終話のラストも、思わず自分が劇団φの一員になったかのように胸が熱くなるだろう。
単行本化にあたって、イラストの掲載はなくなってしまったので、興味のある方はぜひ私のイラストギャラリーを参照して頂きたい。著者ご本人が「イメージ通り」と太鼓判を押してくれた登場人物のビジュアルをご覧いただけるだろう。(キャラクターのモデルと直接交流があるので当然なのだが)
ISBN4-334-92452-2 ¥1800+税
投稿者 Miyuki Noma : 07:24
February 20, 2005 Sunday
モップの精は深夜に現れる
近藤史恵 実業之日本社 Joy novels
『天使はモップを持って』のキリコちゃんが再び登場。大好きなシリーズなのであっという間に読んでしまった。
なにしろ主人公が可愛い。ファッションセンスも魅力的だが、彼女の物の考え方に強く惹かれる。素直であるということはこんなにも気持ちのいいことなのかと。
気持ちがいいのは、キリコの働きっぷりもそうだ。ビルの清掃係という、若い女の子が選びそうもない仕事が彼女の天職なのである。掃除の苦手な私にとってはひたすら尊敬するのみ。
掃除の詳しい描写は、著者の近藤史恵さん自身が、ビル清掃のアルバイトをしていた(と、ご自身の日記に書かれていたことがある)ときの経験が生かされているのだろう。
軽いテイストの短編集ではあるが、起きる事件はかなり深刻なものも混ざっている。そしてラストに収録されている一本は、キリコ自身の家庭生活(なんと彼女は人妻なのだ)にも触れられ、心にポッと暖かいものをもらったように終わっている。
前作の『天使はモップを持って』と合わせて、ぜひ女性の方に読んで欲しい本だ。
ISBN4-408-50448-3 ¥860
投稿者 Miyuki Noma : 07:25
January 23, 2005 Sunday
窓際の死神(アンクー)
柴田よしき 双葉社
帯には「おとぎばなしをモチーフに描く寓話的ミステリー」とある。実際そうなのだが、よくある童話の教訓を取り入れたパロディものと考えて読むとずいぶん違和感があるだろう。確かに作中に死神が登場したりおとぎ話がそれぞれの話の冒頭に登場したりはするが、中身はそれを全く意識させない『柴田節』炸裂のストーリーになっている。
柴田さんのファンならとっくにご承知のことと思うが、この人は実に女性の心理や行動を描くのが巧い。現実に身近にいそうだったり、あるいは自分の心の中にこんな『女』がいるかも知れないと感じさせる程だ。この本に収録されている二話の主人公達も、まるで知り合いの誰かのようなリアリティを持って自らの物語を語ってくれる。もしあなたがOLさんなら余計にそう感じるのではないか。
死神という存在とリアリティ、一見矛盾しているような言葉の組み合わせだが、読んで頂ければ必ず納得されると思う。絶対おすすめ。
ISBN4-575-23511-3 ¥1500+税
投稿者 Miyuki Noma : 06:28
January 20, 2005 Thursday
I'm sorry,mama.
桐野夏生 集英社
帯で使っている「怪物」というキーワードから、『グロテスク』のような作品を想像しながら読んだ。確かに、「自分の中にもそういう部分があるのかも知れないが、やはりかけ離れた女」という意味では 『グロテスク』に近いものがある。
我慢すること、ルールを守ること、他人の権利を侵さないこと…など、生きていく上で守っていかなければならない決まり事は沢山あるが、それを守っていたら生きていけなかった女の物語である。
私の好みだけで言うと、主人公がもっと賢くて、この作品で迎えるラストとは逆の方向に行ってくれたらな…とも思う。しかしそれではテーマそのものが変わってしまうのだろう。あるいは、東野圭吾さんの『白夜行』に近くなってしまうのか。
ISBN4-08-774729-8 ¥1400
投稿者 Miyuki Noma : 04:43
日暮らし 上下巻
宮部みゆき 講談社
『ぼんくら』に登場した同心・井筒平四郎が活躍する長編。
宮部さんの時代物は好きなので、たっぷり読めて嬉しい。もし、「宮部さん好きだけど、時代物は…」と言って敬遠している人は大損をしていると思う。
後半の「仕掛け」は、ちょっと、芦辺拓さんの『殺しはエレキテル』を連想してしまった。
今さら私が言うのも何だけど、宮部さんは本当に文章が巧い。
本筋からは外れるが、江戸時代の「養子縁組」について少々考えさせられた。軽々に現代に当てはめて考えることはできないとわかってはいるが、この時代の大らかさが今にあれば、悩む女性が減るのではないかと思う。
上巻:ISBN4-06-212736-9 下巻:ISBN4-06-212737-7 各¥1600
投稿者 Miyuki Noma : 03:59